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『猫の季節』


 月があんまり明るいもんで、星もチカチカ笑っています。その笑みが梢ごしに散乱してチラチラとふりそそぎ、月の光も山の森の黒いきらきらした腐葉土の上に木々たちのねじれた影を重ねて、ぼんやり満足げです。
 その山の森の中を黒いセーターの十歳くらいの少年がリュックを背負って歩いて行きます。ふと身を屈めると音を殺して小走りに茂みの陰に隠れます。すき間から覗くと先がちょっとした広場です。
 ベンチがあり娘が仰臥しています。若い男がかぶさって体中をまさぐっています。乱暴というより稚拙ですがそんなこと少年には分かりません。男は娘の服の解剖を始めます。
 少年はごくっとつばを呑むとリュックから赤い筒を取り出しふたを開けます。中には青い粉がいっぱい入っています。
 男はキスの雨を降らせて娘の体に沈み込みます。娘はよく分からないようでもぞもぞしています。茂みの陰で少年は筒を立てるとズボンのチャックを下ろしておしっこを中に注ぎます。
 筒からやがて金に光る微細な粒子をふくむ煙がもわもわと立ちのぼります。金ののろしです。
 ニャーゴ。
 早くも猫の鳴き声がします。のろしを焚くと来るのです。
 娘が気付いたらしく体を起こしてこちらを指さしています。少年ははっと身を縮めます。怒れる男が少年のほうにやって来ます。さくさくと土踏む音。
 とっさにポッケに手をつっこみどきどきしながら男の方に歩いて行きます。やりすごすつもりだ。すれちがいに「こんばんは」と声をかけると男は「やあ」。気付かない。アホです。数歩歩いたとき背後で男のはっと息を呑む音とざっと振り返る気配、でも知らんぷりしてずんずん歩いて森の小径に出ました。
 にやっと笑って、少年は山を下ります。
 振り返ると山のあちらこちらから、十本も二十本も金ののろしが上がっています。さながら天使の昇天のようです。ニャアア。ニャアーオ。猫の声がします。遠くでも近くでも、焦がれるように啼いています。 (了)
 
 
 

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